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2026年05月11日

女装子NANA〜真夜中の魔物〜【女装散歩】

国語、歴史、倫理、美術。




世の中の学問がこの4教科だけになればいいのにと本気で願っていた高校生の頃、クラス替えで席が前後になったことで仲良くなった女の子が居た。



彼女は表現を言語化することに優れていて、つい言葉数が多くなってまるで飛沫のように飛び散る私の表現さえも、バラバラに飛んでいった言葉の端々たちを丁寧に集めて、簡潔な一つの塊として私に差し出してくれるような子だった。



自分の好きなことだけを24時間考えていたいのに…と、数学の授業中、真後ろに座る彼女に話し続ける私の相手をしつつも、彼女は淡々とノートをとり続けていた。
授業後、真っ白な私のノートを見て「文学は文章が美しい。数学は数式が美しい。美しさに魅せられてロマンを追求するのはどちらも一緒だから、きっと数学も同じくらい好きになれるよ」と優しい笑顔で言って、さっきまでとっていた自分のノートを貸してくれた。



言葉の色が豊富で、多彩な雑学を持っていた彼女。
その溢れる知識たちは、彼女が放課中に机で一人
音楽を聴いたり読書している姿を遠目に見つつ「あの時間に育まれているのかも…」なんて思ったりしていた。



校則なんか破る為にあるようなものだと思い込み、好きなことだけ学びたいのだと先生たちにどうしようもない我儘を言い放ち、放課後はバッチリ化粧し、ルーズソックスに履き替え、皆んなでプリクラを撮ってカラオケへ行く私。
片やどの授業にも真面目に取り組み成績は常にトップ。委員会にも所属し、運動部では朝練から放課後まで毎日汗を流していた彼女。
ほぼ毎朝遅刻しまくる私が、ダッシュで来たフリをしつつ席について「おはよ!」と口を開く前に「今日も一段とスカート短いですねー!いいですねー♡」と背後でニヤつきながら煽る彼女。「おはよ。エロじじい」と挨拶し直すのが毎朝の恒例だった。



全く正反対の私たちだったけれど「言葉と表現」で交わり、そして果敢で愚かな青い10代が持つ特有の「自分とは何者なのか」という得体の知れぬ恐れに反して膨らむ期待と「何者かに決めつけられて堪るか!私はいつか、必ず何者かになるのだ」という「うちら以外皆んな敵」な反骨心と謎の自信。
アイデンティティの未熟さ故の不完全な哲学と不安定な心。
それら全てを以てして、私と彼女は言葉を交わし続けた。



何よりも、私を受け入れ、そして新たな「知識」を惜しみなく与えてくれる彼女と彼女の文学が私は大好きだった。



それは夏の時、突き抜けるような青空と入道雲が嘘みたいに広がる日だった。
私たちの席は窓際で、前の列から3番目と4番目。
連日続く熱帯夜のせいで寝不足に苦しめられていた私は、その日の授業中も不安定な睡魔に足掻いていた。
ふいに背後から肩を叩かれ、うつらうつらと揺蕩っていたまどろみの世界から突然引き剥がされたように勢いよく後ろを振り返った私に、彼女は小さく微笑みながら囁くように「夜の魔物」と言ったのだ。
唐突に放たれたその一言に脳内の処理が追いつかず、私はきっと、瞬間にして時が止まったような顔で彼女を見つめていただろう。




「夜の魔物」




時間停止した顔で僅かに動いた口を機械的に動かし、放たれた言葉をそっくりそのままオウム返しする間抜けな私。今思い出すと更に間抜けさが増す。



「そう、夜の魔物ですよ。真夜中は魔物が棲むから早く寝なきゃ。奴は思考と理性を吸い取るから」



「………うん」



あれから随分時が経ったけれど、私はふとした瞬間に彼女が放った一言を思い出し、一人「夜の魔物」と呟くことがある。



それは、夜更かしした時。
それは、真夜中の道路を走る車の中で。
それは、なかなか寝付けなくて、横になりつつ天井をぼんやり見つめている時。




それは、女装した変態セカンド童貞じじいNANAを連れて真夜中に栄の街を散歩している時。




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色々な「真夜中」を過ごす度、私の脳内に深く刻まれた彼女の言葉が、あの夏の授業中のあの時のまま、彼女のあの微笑みと囁きで再生される。




「夜の魔物ですよ。真夜中は魔物が棲むから早く寝なきゃ。奴は思考と理性を吸い取るから」



そして、真夜中に溶け込むNANAの横を歩きながらあの時の彼女に答える。



「ねぇ、夜の魔物って本当に居たんだね。今、私の隣を歩いてるよ。異様な雰囲気を放ちながら道行く人たちの思考を停止させ現実を吸い取り、匂い立つような被虐の香りで私の加虐心を吸い寄せるの。こいつはとんでもなくやっかいな存在だね。でも、私はまだ寝ないよ。私がこいつを骨も残らずしゃぶり尽くして吸い取ってやるのだから」



私がそう言い終えると、きっと彼女はいつものように私の目を見つめたまま少しの間思索した後、優しい笑顔を浮かべながら短い言葉でこう言うのだろう。




「本当の魔物はどっちだろうね」



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             次回【黄金プレイ編】につづく








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roze_anri117 at 13:11│Comments(0)

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